2009年の10冊

今年は仕事繁忙やら自分の病気やらいろいろありまして、読書量はすごく減り、例年よりかなり少ない125冊でした。
2008:153←2007:158←2006:195
と着実に減っているのはよくない傾向ですね。もっと意識して読書の時間を作らないと。
それでもその中から10冊を選ぶのは並大抵ではないわけで、基本的には、同じ著者でなるべく重ならないよう、同じくらいの評価の場合はなるべく新しい本を選ぶようにしました。

1位 「一瞬の風になれ」佐藤多佳子

これ以外にも「黄色い目の魚」、「神様がくれた指」が候補入りした佐藤多佳子
またも読まず嫌いで後回しにしていたのですが、はげしく後悔しました。
素晴らしい小説です。高校時代2年生でやめてしまった陸上を引退まで続けていればよかったと思える小説で、後半に入るほどドキドキワクワクしながら読みました。
完璧に感情移入し、最後は一章ごとに泣きましたね。

2位 「刻まれない明日」三崎亜記

短編集「廃墟建築士」もランクインした三崎亜記。「失われた町」の続編として、主に残された人々を描いた連作です。
是非「失われた町」を読んでから読んでほしいですね。
失われた町」から10年後、それぞれが痛みを抱えた残された人と失われた町から届く通信。
スピンオフながらそれを感じない水準の小説はさすが三崎亜記
「失われた町」にも出てきた登場人物たちの「その後」や「それまで」を読むことが出来ます。

3位 「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子

圧倒的に静謐な空気に包まれた、素晴らしい小説でした。
その繊細な筆致とすばらしいストーリーに圧倒されて涙を流すしかない小説です。
小さな天才チェスプレイヤーが主人公でチェスが題材ですが、チェスを知らなくても十分楽しめる本です。

4位 「ドン・キホーテの末裔」清水義範

時々おっというすばらしいパスティーシュを生み出す清水義範。今作は珠玉のパロディ小説にして壮大なメタフィクションです。
あくまでもパスティーシュという「笑い」をベースにしながら、多層的に成り立った実験的な小説を作り出してくれました。
セルバンテスドン・キホーテという題材もすばらしいが、清水義範久々の大傑作でした。

5位 「ナイチンゲールの沈黙ジェネラル・ルージュの凱旋海堂尊

今年の成果は万城目学佐藤多佳子海堂尊という3人の天才に出会えたことでしょう。
海堂氏の小説ははずれが無く、ワンパターンに陥ることもなく楽しく読めるエンターテイメントを同じ舞台で4作生み出すという離れ業を成し遂げています。
この2作は特に同じ時系列で2作が複雑に絡み合っている作品で、そのため2作同時にランクインさせてもらいました。
ナイチンゲール」は悲しい話ですが、すばらしいエンターテインメントです。「バチスタ」に続く主役は白鳥・ぐっちーでなく、小夜と端人。
「ジェネラル・ルージュ」は速見がとても魅力的な人物に描かれていましたし、救急医療の問題にもしっかり食い込んでいました。2作とも破綻していないのもすばらしいですね。

6位 「仏果を得ず」三浦しをん

三浦しをんさんの最高傑作といっていいでしょう。
エッセイは最高におバカでおもしろいのに、小説になるとどうにもはじけっぷりの足りなかった印象の強いしをんちゃんが、やっとはじけてくれたかな?と感じさせる傑作です。
銀師匠、健、オカダマチ、ミラちゃんなど登場人物も魅力的で、ぜひぜひ映像で見てみたい作品です。
楽しいアラサーの青春小説になっていますね。

7位 「廃墟建築士三崎亜記

どうしても絞れなかった三崎亜記さんの小説群。
万城目学さんとどちらを重複ランクインさせようか迷いましたが、刊行年の関係からこちらを選定。
「鼓笛隊の襲来」が消化不良の出来で、やはり長編でないとな、と思っていた三崎さんへの評価を覆す作品集です。
圧倒的な完成度でゆっくりと読みたくなる前半の2作品と展開急に一気に読ませる後半2作。

8位 「かなりや」穂高

昨年デビュー作で児童文学ながら2位にランクインさせてもらった「月のうた」。
前作同様登場人物が交代に主人公を努めますが、ストーリーの面白さ、文章の美しさは相変わらずながら、少し前作より拡散してしまった印象です。多少訓話的なところが鼻に付いたのも残念でした。

9位 「プリンセス・トヨトミ万城目学

今年一気に読んだ「鴨川ホルモー」、「鹿男あをによし」そして再読の「ホルモー六景」、さらにエッセイ「ザ・万華鏡」。
エッセイも含めれば平均点は海堂尊さん、佐藤多佳子さんに並ぶ作品群を次々に生み出してくれた万城目さん。
今作は過去3作より、ずいぶんシリアスな展開ながらはしばしにあふれるユーモアはさすがと思わせる作品です。
登場人物の名前でも笑わせるし、ストーリー上の仕掛けもくすっと笑えます。一気に読みました。

10位 「覇王の番人」真保裕一

かっこよくない、情けない男のリリカルな心情を描く大作で知られる真保さんが、歴史に挑んだ作品です。
ストーリー的には、明智光秀のよく知られていない、織田家臣となるまでと本能寺に至る理由と、その後の有名な「if」に取り組んだ意欲作です。
深く描かれることの無い明智光秀をしっかりと書き込んでいて、彼を主人公に大河をやるならば原作にはこれしかないのではないか、と思わせるものです。楽しく読みました。