2013年の10冊

今年は96冊しか本が読めませんでした。
近年にない少なさでしたね。
そのため10冊を選ぶのに少々難儀しました。

  1. 「楽園のカンヴァス」原田マハ:ルソーの「楽園」とその双子作といわれる「楽園を見た」を題材に、ルソーの生涯を描き出したこの作品は、リリエンタールをモデルに書かれた「翼をください」に比肩する名作だと思いました。
  2. 「一路」浅田次郎:タイトルの「一路」は主人公の名前にも、参勤交代の一団にも通じます。自らの使命に実直に、運命に抗い愚直に古式の行軍を指揮する若き御供頭を務める一路とそれにシンパシーを感じる行軍にまっすぐな気持ちを覚え、一気に上下巻の大作を読み終えました。美濃から江戸までの田名部家と一路の一路がどのような大団円を迎えるか、楽しめました。
  3. 「聖なる怠け者の冒険」森見登美彦:朝日新聞の連載小説を書籍化したのではなく、全く新たに書き起こしたという森見登美彦の新作。宵山万華鏡や有頂天家族との密接な関わりを見せながら、怠け者の冒険を楽しく描いてくれました。
  4. 「七夜物語」川上弘美:川上弘美初のジュニア向けファンタジー。いつものように美しい言葉で大人にも子供にも染み渡る言葉で物語がするすると心の中に入って行きました。終わって欲しくない、最後の冒険が終わるまでそう思いながら読みました。冒険する二人に感情移入しながら、それでも出来合いのハッピーエンドでない終わり方もとても良かったです。
  5. 夜の底は柔らかな幻恩田陸:こちらも上下巻あったいう間に読み終えてしまった作品です。読み始めてしばらくして考えたのは暗い常野物語。特殊能力を題材に久々に恩田陸が描く作品ですが、ダークサイドオブ常世物語としてシリーズ化は必至ではないかと思わせる、結論があってないような読後感でした。
  6. 「リボン」&「つばさのおくりもの」小川糸:小さなオカメインコ、リボンがつないだ地のつながらない祖母との永遠の絆、そしてある時自由を得たリボンは様々な人々のリボン、として絆をつなぎながら旅をして。ラストは涙が止まりませんでした。そして「つばさのおくりもの」はほんとうに短かい、だけどほんとうは長い、「リボン」に登場したオカメインコが、いろんな人の元で暮らしながら最後に自分の名前を取り戻すまでのお話。ぜひ「リボン」と一緒に読まれることをお勧めします。
  7. 「ストーリー・セラー」有川浩:深い、どこまで深い。どこまでが物語で、どこから小説なのか、読者を試すことこのうえない小説です。
  8. 「キアズマ」近藤史恵:「サクリファイス」シリーズ最新作、ではなく近藤史恵のロードレースシリーズの新たな第一章というイメージ。これまでのシリーズとはガラリとシーンを変えた、弱小大学自転車部の未経験ライダーが主人公。主将の怪我の原因となってしまったため1年限定の自転車部員となった正樹。彼が頭角を表して行く様はできすぎとも思えますがあり得ないストーリーではないとも思いました。そして彼の成長と共に、読者もまたロードレースに魅了されていくでしょう。次のシリーズ、ひょっとしたらオッジの一員として正樹、櫻井の姿を小説の中にみるかもしれません。そう思えるような小説でした。
  9. 「ことり」小川洋子:ことりのすべてを教えてくれた兄とことり、そして一人の女性だけを愛した孤独な老人のひそやかで美しい一生を描いた物語。静謐な筆致で美しい物語を紡ぎあげてくれました。
  10. 「七つの会議」池井戸潤:ネジの強度偽装、という小さく見える事柄が、大小様々な七つの会議の中で企業の体質や個人の資質まで問うてゆく。畳み掛けるような筆致に巻き込まれながら、楽しい読み物の時間を過ごしました。